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2003年12月12日

小児用タクロリムス(プロトピック)軟膏の発売に際して

日本皮膚科学会
アトピー性皮膚炎治療問題委員会
タクロリムス外用薬問題ワーキンググループ
委員長 竹原 和彦
委員  川島  眞
古江 増隆
中川 秀己
古川 福実

 昨今,タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏,藤沢薬品工業(株))の安全性を問題視するメディア報道が相次ぎ,本学会員より,臨床の現場にも患者さんからの問い合せや薬剤の返却などの混乱が生じているので,日本皮膚科学会としても,きちんとした見解を示してほしいとの要望が「アトピー性皮膚炎治療問題委員会」に寄せられました.
 このような状況を受け,本年7月11日の理事会で,この問題が検討された結果,緊急の対応として「タクロリムス外用薬問題ワーキンググループ」を組織し,日本皮膚科学会としての見解を患者さんに示す「タクロリムス外用薬についての日本皮膚科学会の考え」を作成し,小児用タクロリムス軟膏発売の時期に合わせて「タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)使用中及びこれから使用される患者さんへ」として示すことになりました.
 この見解は,必要に応じて個々の学会員の先生方の診療の現場で活用して頂くとともに,インターネットのホームページなどでも公開することにより,メディアや患者さんの団体など,ひいては社会全体に当学会の考え方を伝えていきたいと思います.
 今回は,患者さん向けのQ&Aの方法で見解をまとめましたので,患者さんによっては,理解しにくい医学用語もあるかもしれません.会員の先生方には個々の患者さんに対して,それぞれさらにかみくだいてご説明願います.
 また,全体として今回の文章は,長過ぎるかとも思いますが,患者さんの疑問の持ち方に応じて必要な部分のみを使用するなど説明を工夫していただければと思います.
 なお,以下に参考文献を示します.さらに細かい点について,ご自分で検証される場合には,以下の文献をご参照下さい.

【参考文献】

  1. Osamu Hirai, 他:Mutagenecity Test of Tacrolimus (FK506).基礎と臨床26(3):989-1001,1992.
  2. FK506軟膏研究会:FK506軟膏第III相比較試験―アトピー性皮膚炎(顔面・頸部)に対するプロピオン酸アルクロメタゾン軟膏との群間比間試験―.皮膚科紀要92(3):277-288,1997.
  3. FK506軟膏研究会:アトピー性皮膚炎(顔面・頸部)に対するFK506軟膏第III相長期観察試験.皮膚科紀要92(3):289-300,1997.
  4. FK506軟膏研究会:FK506軟膏第III相比較試験―アトピー性皮膚炎(躯幹・四肢)に対する吉草酸ベタメタゾン軟膏との群間比較試験―.西日本皮膚科59(6):870-879,1997.
  5. 川島 眞:アトピー性皮膚炎患者におけるFK506軟膏の安全性確認試験.臨床医薬13(6):1483-1492,1997.
  6. FK506軟膏研究会:アトピー性皮膚炎に対するFK506(タクロリムス)軟膏の長期観察試験―1年間の成績―.臨床医薬14(13):2405-2432,1998.
  7. FK506軟膏研究会:アトピー性皮膚炎におけるタクロリムス軟膏の使用ガイダンス(現在,成人用小児用合わせた改訂版投稿中).臨床皮膚科53(12):1057-1068,1999.
  8. FK506軟膏研究会:アトピー性皮膚炎に対するFK506(タクロリムス)軟膏の長期観察試験―2年間の成績―.臨床医薬17(5):705-726,2001.
  9. 大槻マミ太郎,他:FK506軟膏の小児におけるアトピー性皮膚炎に対する第III相試験.臨床医薬19(6):569-595,2003.
  10. 川島 眞,他:FK506軟膏の小児アトピー性皮膚炎患者に対する長期観察試験.臨床医薬19(6):597-636,2003.
  11. FR900506軟膏をBCFマウスに24ヶ月反復塗布した癌原性試験(藤沢薬品工業社内資料→請求可能)
  12. ヘアレスマウスにおける紫外線照射とFR900506軟膏の塗布投与による12ヶ月光発癌試験(藤沢薬品工業社内資料→請求可能)

【追記】

 タクロリムス軟膏の適正使用を遵守し,臨床の現場において本薬剤の特徴につき十分に一人ひとりの患者さんに説明しつつ使用することが,われわれ皮膚科医の責務と考えます.
 特に添付文書に記載されている以下の警告,禁忌事項などについての注意を十分に守りつつ使用していただきたいと存じます.

  1. 現時点で使用が禁止されている妊婦,授乳している人,2歳未満の乳幼児に対しては使用しないようにして下さい.
  2. 使用量の上限(成人で1回5g,1日10g,小児では年齢に合わせて添付文書に記載)を守って下さい.
  3. 潰瘍やびらん局面に対しては,血中濃度が上昇する可能性があるので使用しないで下さい.
  4. 魚鱗癬様紅皮症を呈する疾患(Netherton症候群など)の患者さんには使用しないで下さい.
  5. 高度の腎障害,高度の高カリウム血症のある患者さんには使用しないで下さい.
  6. 本薬剤の成分に対して過敏症の既往歴のある患者さんには使用しないで下さい.
  7. 皮膚感染症を伴う患者さんでは,皮膚感染症が増悪する可能性があるので,原則として使用しないこととし,特に必要とする場合は慎重に使用して下さい.
  8. PUVA療法と併用しないで下さい.
  9. 使用開始時に高頻度の刺激感があることを必ず説明して下さい.
  10. 本剤の使用にもかかわらず,2週間以内に皮膚の改善が認められない場合や,皮疹の悪化をみる場合にも使用を中止して下さい.
  11. 症状の改善に伴って本剤塗布の必要がなくなった場合は漫然と長期にわたって使用しないで下さい.
  12. 密封療法及び重層法での臨床使用データはなく,血中濃度を上昇させる可能性が否定できませんので,これらの方法での使用は避けるようにして下さい.
  13. 小児・成人のいずれに使用する場合も,添付文書にしたがってリンパ腫,皮膚癌のリスクについて説明するようにして下さい.

2003年12月12日

タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)使用中およびこれから使用される患者さんへ

日本皮膚科学会

アトピー性皮膚炎治療問題委員会
タクロリムス外用薬問題ワーキンググループ
(文章作成担当)

 タクロリムス軟膏(商品名:プロトピック軟膏,藤沢薬品工業(株))は,1999年11月より,日本で世界に先駆けて大人(16歳以上)のアトピー性皮膚炎治療薬として使用されるようになり,約4年を経て,世界数十カ国でアトピー性皮膚炎の治療に大変役立つお薬として,広く使用されるに至っています.
 また,2003年12月よりは,小児(2〜15歳)のアトピー性皮膚炎の患者さんにも濃度を薄くした小児用のものが使用されるようになりました.しかし,今回小児用のお薬の使用に際しては,メディア報道を含むいろいろな情報が飛び交い,患者さんの間で一部に混乱が生じているようですので,当学会の考え方について,以下にご説明します.

★はじめに
 今回小児用のタクロリムス軟膏の発売に際して,厚生労働省から使用する医師に対して,以下のことを患者さん及び保護者の方にご説明して納得していただいたうえで使用することが義務づけられました.

  1. マウス(実験用のネズミ)にこのお薬を長期間塗り続けるという実験で,高い血液中の濃度が長期に続いたことより,リンパ腫という癌の増加がみられたこと.
  2. この薬との関連ははっきりしていないものの,外国において,この薬を使用中にリンパ腫と皮膚癌がみられたことが報告されていること.

 1については,Q4で詳しく説明しますが,アトピー性皮膚炎の患者さんにおいて決められたルールにしたがって使用していれば,「高い血液中での濃度が長期に続く可能性」は極めて低いことがこれまでのデータから明らかにされています.
 2については,Q7で詳しく説明します.日本では,この薬を使用した患者さんでのリンパ腫,皮膚癌の発生は,これまでにみられていません(2003年9月現在).海外では,この薬の使用との関連が完全に否定されないと判断された例が,リンパ腫,皮膚癌ともに3例づつ報告されています.逆に,この薬との関連が強く疑われた癌の発生は,今のところ1例もありません(2003年9月現在).
 この薬は世界中で既に少なくとも数十万人の患者さんに使用されていることより,それぞれの3例の発生は,自然にこれらの癌が発症する確率を超えるものではないと考えられます.
 しかしながら,昨今タクロリムス軟膏に関して,以上のような癌についての危険性を著しく強調するメディア報道が続いたため,使用中またはこれから使用される患者さんの一部に過度の不安を与える結果となってしまいました.
 そこで,日本皮膚科学会としては,皆様から寄せられた代表的な質問に順を追ってさらに詳しくお答えする形で,私たちの考え方をお伝えしたいと思います.

【Q1】タクロリムス軟膏が使用されるようになってから4年が経つのに,なぜ,この時期に急に安全性が問題視されるようになったのですか?

 そのきっかけとなったのは,ある団体が,タクロリムス外用薬の小児用に対して承認見送りの要望書を厚生労働省に提出したことからです.
 小児用タクロリムス外用薬は,その要望書の内容も含めて,その効果及び安全性の十分な審査の後に,2003年7月17日に正式に許可されました.
 その後,小児についても,2003年12月より実際の診療の現場で使用されるようになりました.また,成人についても今まで通り使用されています.

【Q2】Q1にあった要望とは,どのようなものでしょうか?

 この団体は,成人用のタクロリムス軟膏承認の際に行われた動物実験のデータや,臓器移植の患者さんでタクロリムス軟膏と同じ成分の飲み薬を長期に内服している患者さんのデータより,タクロリムス軟膏使用によって「ガンが増える恐れが大きい」として,
  1. 小児用は承認を認めない
  2. 成人用も使用を中止する
  3. 使った患者さんの健康状態の追跡調査をする
の3点を厚生労働省に要望しました.
 厚生労働省では,これらについていろいろな面から慎重に検討しました.その結果,これまで使用されてきた成人用の軟膏についても,これから使用されるようになった小児用の軟膏のいずれについても,アトピー性皮膚炎の治療に使うことはかまわないという結論に至りました.しかし,それらを使う際には,一定のルールを守った上で,アトピー性皮膚炎の治療に慣れたお医者さんによって適正に使用するようにとの注意をつけることにしたのです.

【Q3】タクロリムス軟膏をマウスに塗ると,ガンの発生が何十倍にもなったというデータは本当でしょうか?

 まず,その主張のもととなった正常のマウスに2年間塗布する慢性毒性試験という動物実験について説明します.その試験は,
  1. 元来,皮膚に対する安全性をチェックすることを第一目的として行われたものです.
  2. それと同時に,マウスはヒトと比較して皮膚が薄いために,血液中の濃度が上昇するかどうか,もし上昇した場合には全身への影響があるかどうかも調べています.
  3. マウスの2年というのは,ほぼヒトの一生に相当する期間と考えて下さい.
  4. 正常マウスを普通に飼っていても,約20%前後に悪性リンパ腫という自然発症のリンパ節のガンが発生します.
 以上を踏まえて,実験結果について説明します.
 したがって,0.1%の軟膏を毎日分厚く塗り続けるような極限状態のマウスにおいては,血液中の濃度が特に高くなり,リンパ腫というガンが増加したということになります.

【Q4】それでは,成人で使用されている0.1%の軟膏を使用すると,ガンの発生がヒトでも増えると考えられるのですか?

 アトピー性皮膚炎の患者さんにおいて軟膏として適正に使用した場合,血液中の濃度は持続的に上昇することはないと考えられますので,ガンの発生が特に増加するとは考えられません.その根拠は次のような理由からです.
  1. 成人のアトピー性皮膚炎の患者さんで,0.1%のものを1日最大20g毎日長期に(最大2年間)使用した試験では,使用開始直後に一過性に血液中の濃度が10ng/ml以上(注意を要するレベル)に上昇した患者さんが131人中4人いました.また,1年間の経過観察中では,皮膚症状の増悪とともに一度だけ10ng/ml以上の濃度を示した患者さんが423人中1人いました.しかし,これらの患者さんは皮膚症状がよくなるにしたがって,すぐに低濃度または検出限界以下になりました.
  2. 小児の患者さんに長期(1年間)0.03%または0.1%のタクロリムス軟膏を塗った試験でも,それぞれ97人,96人の患者さんで問題となるような血中濃度(10ng/ml以上)の上昇をみた人はありませんでした.最高でも0.03%で1.5ng/ml,0.1%で5.2ng/mlで一回限りの上昇でした.
 なお,成人用の軟膏が許可された時には,
  1. 長期安全性試験では,1日最高20gの使用で行われましたが,その半分の1日10gにその使用が制限されて許可されました.
  2. さらに,血中濃度の上昇がより起きにくくなるためにジクジクした症状の部位には使用してはならない.
とのルールが作られました.
 したがって,持続的に血液中の濃度が上昇した状態が続くことは,使用上の注意を守るかぎり起こることはないと考えられます.
 以上は,動物実験のデータを含めた成人の0.1%タクロリムス軟膏が認可された際に,十分な議論のもとに到達した結論とそれにしたがって作られたルールです.
 また,Q3で説明致しましたように,0.1%のものを正常のマウスに2年間塗っても皮膚には影響が出ませんでした.

【Q5】タクロリムス軟膏と同じ成分の内服薬使用者で,ガンの発生が増えるというのはほんとうですか?

 白血病の骨髄移植や,その他の臓器移植後の患者さんで,プログラフというタクロリムス軟膏と同様の成分の内服薬が拒絶反応を抑える薬として使用されています(これらの患者さんにとってプログラフという飲み薬は,生命を維持するために欠かせないお薬です).これらの患者さんではガン,特に悪性リンパ腫が増加することが,1997年までのデータで明らかにされました(12歳未満8.8%,12歳以上0.8%).
 この最大の理由は悪性リンパ腫の一部を引き起こすEBウィルスを抑える細胞の働きまでもプログラフが抑えてしまうためと考えられます.しかし,プログラフを含む免疫力を抑える治療法が改善された1999〜2000年の時点では小児腎移植患者ではプログラフを使用しない場合(1.1%)と使用した場合(0.95%)とほぼ差がないというデータが出ています.
 現状では,プログラフという内服薬を使用すると必ずガンになるということではなく,多少危険性が増えるかどうかということが議論されている状況まで使用法が改善しているのです.

【Q6】タクロリムス軟膏を外用していた場合,プログラフ内服と同じような心配はあるのでしょうか?

 タクロリムス軟膏の使用量は,成人では1日10gに,小児では,それぞれ年齢に応じた量に制限されていますが,これらの量の範囲内での使用をずっと続けていたとしても,血液への移行は微量であることが確認されており,内服薬のような心配はありません.

【Q7】タクロリムス軟膏を外用していた場合に,使用部位に皮膚ガンが発生しやすくなることはないでしょうか?

 成人用0.1%が承認された時のデータですが,紫外線照射で100%皮膚ガンが起こる色素を持たないアルビノマウスという特殊なマウスで実験してみたところ,オスのマウスに限って皮膚ガンが起こる期間が若干短くなるというデータが出ましたが,タクロリムスを含まないワセリン基剤のみでも同じ程度に短くなるというデータが出ました.この結果より,タクロリムス自体に皮膚ガンの発生する実際的な影響ははっきりと確認されたわけではないと考えられています.但し,念のため日光浴,海水浴,日焼けサロンなどの状況では使用しないような注意がされています.また,約10年前から,タクロリムス軟膏の開発に協力下さった患者さんの調査及び市販後の調査ではリンパ腫,皮膚ガンの報告は国内にはなく,皮膚ガンの多い外国でも,少なくとも数十万人使用されている中で,この薬との関連が完全に否定されない3例のリンパ腫及び3例の皮膚ガンの報告はありますが,タクロリムス軟膏とのはっきりとした関連が確認されたものはありません.この薬は,世界中で既に少なくとも数十万の患者さんが使用されていることより,それぞれの3例の発生は自然に発症する確率を越えるものではないと考えられます.

【Q8】タクロリムス軟膏の世界的な評価はどうですか?

 1999年11月に日本で成人用0.1%が認可され,その後2001年2月には米国で成人用0.1%及び0.03%,小児用0.03%が認可されて以来,薬との因果関係がはっきりした大きな副作用の発生は1例もなく,アトピー性皮膚炎治療薬として高い評価を受けています.
 最近では,EU,アジアでも数十カ国で承認を受け,世界的な標準薬の地位を確立しつつあります.それぞれの国で日本と同じ動物実験のデータや,治験といわれるヒトでの承認前の使用試験成績を厳密に審査された上で,認可されているのです.

【Q9】今回の要望書を受けて,成人のタクロリムス軟膏が使用取消しになることがありますか?

 一部のメディア報道が,結果として読者に対して誤解を与えてしまうような内容であったため,このような問合せもありましたが,タクロリムス軟膏の使用が取り消しになることは,少なくとも現在の状況においては考えられません.それは,タクロリムス軟膏の危険性についての指摘が内服薬における危険性と混同されている部分が多いことより,厚生労働省が使用取消しの決定をする可能性はないと考えられるからです.
 なお,これまでにもステロイド外用薬の全面使用禁止の要望書がいくつもの団体から厚生労働省に出されていますが,それらの要望も内服薬と外用薬の危険性を混同している誤解に基づくものが多く,全く当局によって取り上げられていないことと状況は類似していると思います.

《最後に》
 成人,小児用ともに,タクロリムス軟膏には,厳しい使用上の注意を払うことが義務づけられており,医師に対しても使用に際しての特別のガイダンスが作成されています.
 今後とも,誇張された情報に惑わされずに,主治医の先生と十分なコミュニケーションを取りながら,タクロリムス軟膏を適正に使用していくことを当学会よりも患者の皆様にお願いしたいと思います.

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社団法人日本皮膚科学会
http://www.dermatol.or.jp