解説:皮膚癌は白人を中心に世界的に急増傾向にあり、基底細胞癌(BCC)も例外ではない。特にオーストラリアでは皮膚癌の増加が深刻な社会問題となっており、国を挙げての紫外線防御キャンペーンが政策として行われている。
オーストラリアの中でも最も皮膚癌罹患率が高い地域の一つであるNambourにおいて大規模な介入研究が行われた(
1)。健常人1621人を対象としてサンスクリーン剤(SPF15)使用群と非使用群に割り付けたところ、観察期間4.5年の時点ではBCCの新規発生患者数、病巣数ともに有意差がみられなかった。しかし、彼らはその後、多発生生存分析(multifailure survival analysis)の手法を用いてBCCが多発・続発するまでの時間因子を加味した解析を行い、統計学的な有意差には至らなかったものの、サンスクリーン剤使用群においてBCCの二次発生リスクが減少傾向を示したと報告している(
2)。
欧米では緯度の差によりBCCの罹患率が明らかに異なり、紫外線の影響がその主因と考えられている。日本人においてはBCCを含めて皮膚癌についての大規模な記述疫学データは存在しないが、報告されている範囲ではBCCと紫外線との因果関係を示すだけのエビデンスは存在しない(
3,
4,
5)。NambourにおけるBCCの罹患率は人口10万人対数千という高いレベルであり、これは日本人の数十倍から数百倍と予想されるため、今回の介入研究の結果を日本人にそのまま適用するのは困難である。紫外線による健康被害は皮膚癌だけでなく白内障、免疫抑制による感染症などもあるため、過度の日光浴を避けるという指導は必要であろうが、BCCの発生予防を目的としたサンスクリーン剤の使用は本邦においては妥当性に乏しい。