解説:不完全切除とは、組織学的に不完全ないし不適切に切除された基底細胞癌(BCC)と定義される。不完全切除のBCC 43例に切除を行って組織学的に検討したところ、腫瘍細胞の残存はわずかに7%であったという報告がある(
1)。他方、78例の不完全切除例をMohs法で検討したところ、55%で腫瘍細胞の残存が認められたという報告もある(
2)。
不完全切除例の再発率については、不完全切除例60例中の35例(58%)(
3)、34例中の41%(平均経過観察期間2年)(
4)で再発がみられたと報告されている。他方、再治療を行わなかった不完全切除例の3分の2以上で再発が認められなかったという報告もある(
5)。再発のリスクが高いのは、組織学的に腫瘍辺縁と深部断端の両方に腫瘍細胞が残存している場合と再発病巣に対してさらに不完全切除が行われた場合である(
3)。再発率は、腫瘍辺縁に残存すれば17%、深部断端陽性の場合は33%という報告もある(
6)。再発は多くの症例で3年以内におこり、最初の5年で82%、残り18%がその後の5年に生じると報告されている(
7)。ただし、これらの報告のほとんどは後ろ向き研究である。
不完全切除のBCCに対しては以下のような対処法が考えられる。
1)再切除を推奨:速やかに追加治療を行う(
2,
3,
4,
8)。これは外側辺縁のみに取り残しがあり、組織学的にも浸潤傾向がなく、さらに再発病巣でないこと、高リスク部位以外の症例に当てはまると考えられる(
9)。速やかに再切除したBCCの10年局所寛解率は92%、臨床的に再発してからの切除後のそれは90%であり、10年非再発率はそれぞれ91%と40%であった(10年局所寛解率と10年非再発率がどのように違うのか、少し分かりにくいように感じます。)(
3)。残存病変の治療にはMohs手術もしくは術中迅速病理検査を併用した通常の切除法が有効である。
2)放射線治療:187例(93%が頭頚部領域)の不完全切除例のうち119例に放射線療法を追加し、残りの67例は未治療のまま経過観察した結果、放射線療法の5年治癒率が91%、未治療例のそれは61%であったという (
6)。残存病変に対する放射線治療の適応は、再切除が不適当もしくは患者が拒否した場合、切除によって障害が残る場合に容認される。
3)経過観察:残存病変があっても再発する確率が低いという理由から、もし深部断端陰性で活動性が低い組織型であれば、経過観察という選択肢も考えられる。しかし、このような保存的方針が適応となる対象患者の選択基準は不明である(
10)。