解説:基底細胞癌(BCC)が転移を生じることは例外的であり、手術療法を中心とした局所治療によって90%以上の症例が治癒する(
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5)。しかし、手術療法後の機能や整容性の低下などの理由で十分な切除断端が確保できない症例や、何らかの理由で手術療法が適応しにくい症例も存在する。そのような症例には放射線療法を行うことで良好な局所制御が期待できる(
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10)。BCCについては、手術療法での良好な治療成績や、放射線療法後の遅発性有害事象などの問題から、これまで放射線療法は一部の症例を除き敬遠される傾向にあった。
BCCに対する治療法別の局所制御率を直接比較したランダム化比較試験には、通常の切除術とMohs手術とを比較した試験や、手術と放射線治療を比較した試験、放射線療法と凍結療法を比較した試験などがあるが、現在利用可能な情報は患者選択にバイアスを含んだ後ろ向き研究が多く、各治療法の優劣を判断することは難しい(
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13)。しかし、いずれの治療法にても局所制御率が概ね90%以上という良好な成績が得られている(
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12)。局所再発の危険因子として、腫瘍径の大きなもの、浸潤傾向の強い腫瘍、顔面に発生した大きな腫瘍などがあげられる(
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10)。放射線療法後の局所制御率は90%程度と概ね良好である(
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13)。放射線療法は手術侵襲が加わらないことや腫瘍周辺の重要臓器を避けることができるなどの利点がある一方、頻回の通院を要することや若年者においては発癌性の問題があることなどが欠点としてあげられる(
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放射線療法の適応が考慮されるBCCは、腫瘍径が大きく十分な切除断端が確保できない症例や何らかの理由で手術療法が非適応の症例である(
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15)。特に口唇や眼瞼、鼻、耳介周囲の腫瘍では腫瘍径に見合った十分な切除断端を確保しにくいため、時に放射線療法が選択される(
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15)。現在、表在X線装置が用いられることはまれであり、電子線を用いた放射線療法が中心となっている(
8)。治療成績は放射線の線質に関わらず同等と考えられており、腫瘍の大きさや進展度から適切と思われる照射法が選択される(
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16)。従来、利便性を考慮し、1回線量を上げて短期間で終了する照射スケジュールを用いた治療成績が多く報告されているが(
8)、骨壊死や軟骨壊死、毛細血管拡張といった遅発性有害事象が問題とされた(
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6)。NCCN
注1のガイドラインでは、2 cm以下の腫瘍ではマージンを5-10 mm程度とした照射野で、1回線量2.5-3 Gyにて総線量45-50 Gyを、また、2 cmを超える腫瘍では1.5-2 cmのマージンの照射野で1回線量2 Gyにて総線量60-66 Gy(または、一回線量2.5 Gyにて総線量50-60 Gy)を照射することが推奨されている。また、手術後、切除断端が陽性の症例では術後照射が考慮されることがある。なお、膠原病の患者は放射線療法後の有害事象のため、また色素性乾皮症患者は二次癌を誘発するため放射線療法は推奨されない。
注1:NCCN:National Comprehensive Cancer Network (v1, 2006)