解説:基底細胞癌(BCC)の標準治療は外科的切除であるが、非外科的治療として光線力学的治療(PDT)が欧米を中心に近年導入されている。PDTは腫瘍親和性の光線感受性物質を投与した上でレーザー光を照射し、光励起反応による選択的な腫瘍細胞の崩壊を目的とした治療法で、皮膚腫瘍に対してはδ-アミノレブリン酸(ALA)の外用投与が主に用いられている。
BCCに対するPDTの奏効率は病型により異なり、表在型に対する完全奏効率は80〜100%と報告されているが(
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3,
4)、結節型では10〜50%まで低下する(
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4)。それは腫瘍の厚みによりALAの浸透と光線の透過が十分に得られないことが理由とされる。表在型BCCについては、2cmを超える大型例と3ヶ所以上の多発例を対象とした臨床試験も行われており、長期完全奏効率はそれぞれ78%、86%であった(
3)。
日本人では大半を占める色素性BCCでは、メラニンの存在により光線が吸収されるために有効性が劣る(
4)。Itohらはその点を考慮し、結節型BCC 16病巣に対して掻破+電気乾固療法とPDTの併用療法を行い、14病巣で臨床的な完全奏効を観察した(
5)。経過観察期間は短いが、日本人を対象とした臨床試験という点では非常に貴重な報告である。
BCCの既存の治療法を対照としたPDTのランダム化比較試験は2件報告されている(
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7,
8)。1篇は結節型BCCに対して標準治療である外科的切除を対照とした比較試験で(
7)、1年後の完全奏効率はPDT群で83%、外科的切除群で96%であった。統計学的な有意差には至っていないが奏効率として13%の差は無視できず、著者も結論として「PDTの方が再発しやすい傾向がある」と記載している。もう1篇は表在型と結節型の両者を対象とした凍結療法との比較試験で(
8)、1年後の組織学的な再発率はPDT群25%、凍結療法群15%で、これも10%の差はあるが有意水準には至らず、病型別にみても差はみられなかった。いずれのランダム化比較試験も整容効果を副次的指標に設定しており、PDTは対照群よりも治療後の整容面では有意に優れていた。
以上より、表在型BCCに対してPDTは高い奏効率を示し、特に大型例や多発例に対しては適応が高い。結節型および日本人に多い色素性BCCに対して奏効を得るには、掻破や電気乾固などとの併用の工夫が必要と考えられる。PDTは既存の治療法と比較して整容面では優れるが、同等もしくはそれ以上の抗腫瘍効果が得られるかという点についてはまだエビデンスが不十分である。