MM-CQ11
メラノーマ患者に予防的所属リンパ節郭清術を施行すると生存率が改善するか
推奨度:C2
推奨文:複数の大規模ランダム化比較試験(RCT)にて、予防的所属リンパ節郭清術(elective lymph node dissection; ELND)が予後を有意には改善しないことが示されている。特定の条件で規定された一群の患者ではELNDが生存率の改善に寄与する可能性は残されてはいるが、一律的なELNDの施行は推奨できない。
解説:ELNDとは、臨床的に所属リンパ節転移を認めない症例に対し、遠隔転移発生前に予防的に所属リンパ節を郭清することをいう。ELNDを施行された症例のうち所属リンパ節に顕微鏡的転移が認められる確率は20%程度であるから、残りの80%の症例は不要な外科的侵襲を受けることになる。
  ELNDの有用性を検討した最近のシステマティック・レヴューでは2001年2月までに発表されたメラノーマのELNDに関する論文229編を抽出し、それらのうち方法論的に厳密な評価に耐えうるRCTとしてWHO Melanoma GroupおよびIntergroup Melanoma Trialの2つのグループによって行われた3つの臨床試験を採択している(1)。
WHO Melanoma Groupの最初の臨床試験(2)では553例がELND群と(3ヶ月ごとの経過観察にて臨床的に転移が発見された時点で郭清を行う)経過観察群の2群に振り分けられたが、全生存期間、無病生存期間のいずれにも有意差は認められなかった。しかし、この試験では四肢遠位部発生例のみが被験対象となったこと、被験者の85%が女性であったこと、振り分けに際して原発腫瘍の厚さや潰瘍化の有無という重要な予後因子が考慮されなかったことが問題とされた。
この点を考慮して実施された別のWHO Melanoma Groupの臨床試験(3)では厚さ1.5mm以上の体幹原発メラノーマ240例が対象とされ、5年生存率でELND群61.3%(95%CI:52.0-70.1)、経過観察群51.3%(95%CI:41.7-60.1)という成績であったが、統計学的に有意差は認められなかった。
一方、Intergroup Melanoma Trialの臨床試験(4,5)は、740例の病期IおよびIIで原発腫瘍の厚さ1.0から4.0mmのいわゆる「中間リスク群」を対象に行われたが、ELND群と経過観察群の10年生存率はそれぞれ77%、73%であり、やはり統計学的有意差は認められなかった(p=0.12)。ただし、原発腫瘍の厚さ1.0〜2.0mm、潰瘍化あり、年齢60歳以下の3つのサブグループにおいてELND群の予後が有意に優れていたことから、特定の条件で規定された一群の患者ではELNDが生存率の改善に寄与する可能性が示唆された。
  以上のように、ELNDの有用性は完全に否定されたわけではないが、近年センチネルリンパ節生検が導入されたことと、ELND施行後のリンパ浮腫、創部の感染や壊死などの合併症を考えると、一般的にはELNDは推奨されない。