推奨文:原発巣の厚さが1o〜4oのメラノーマ患者に対してはセンチネルリンパ節生検(sentinel lymph node biopsy; SLNB)を実施することが推奨される。SLNBによって顕微鏡的なリンパ節転移が早期に発見され、そのリンパ節領域を郭清することにより予後が改善される可能性がある。
解説:SLNBは所属リンパ節の中で最初に転移を生じるセンチネルリンパ節(SLN)を同定し、生検する技法である。この方法によって、SLNに転移が発見された患者に所属リンパ節郭清を行い、その他の患者への不要な外科的侵襲を避けることができる。
初期には、メラノーマにおけるSLNの同定率は75〜90%、偽陰性率(SLNに転移陰性でそれ以外のリンパ節に転移あり)は1〜2%と報告された(
1)。その後、色素法とシンチグラフィーを併用することによりSLNの同定率は93〜99.5%へ向上した(
1,
2)。
SLNにおける顕微鏡的転移の陽性率は原発腫瘍の厚さに比例して上昇する。MD Anderson癌センターのデータによれば、SLNの転移陽性率は原発腫瘍の厚さが1.5mm以下で4.8%、1.5mm〜4oで19.2%、4o以上で34.4%であった(
2)。原発腫瘍の厚さ1o未満の症例におけるSLN の転移陽性率は3%程度に過ぎないので、一般的にはSLNBは推奨されない(
3)。ただし、これらの薄い原発巣でも、男性例、原発巣の潰瘍化あり、体幹原発例などではリンパ節転移のリスクが高いことが知られており、SLNBを考慮してもよい。他方、原発腫瘍が4oよりも厚い患者では遠隔転移の発生率が65〜70%と高いために、SLNBとリンパ節郭清の意義は小さいと考えられる。
SLNBが生存率を改善するかどうかを検討するために、17施設共同のランダム化比較試験(MSLT-1)が行われた。この試験では原発腫瘍の厚さが1.2o 〜3.5oの1269例をSLNB施行769例と原発巣切除のみ(術後の定期的観察でリンパ節転移が出現した時点で郭清)500例の2群に振り分けた。その結果、5年無病生存率は前者が78.3±1.3%、後者が73.1±2.1%でSLNB群が有意に優れていた(p=0.009;死亡 HR 0.74)。SLNの転移陽性率は16.0%(122/764)、経過観察群のリンパ節再発率は15.6%(78/500)でほぼ同等であった。所属リンパ節における転移陽性リンパ節の平均個数は、SLNB群で1.4個、観察群で3.3個で有意に後者が高く(p<0.001)、観察期間中におけるリンパ節転移の進行が示唆された。転移陽性例の5年生存率はSLNB群が72.3±4.6%、観察群が52.4±5.9%で前者が有意に優れていた(死亡HR, 0.51;p=0.004)(
4)。この成績はSLNBとその結果に基づく直後の所属リンパ節郭清が予後の改善に繋がることを示唆している。