推奨文:遠隔転移が単発で根治的切除が可能な場合には、その転移巣の切除により患者の生存期間が延長する可能性がある。また、遠隔転移巣の切除が症状緩和に有益なことがある。
解説:遠隔転移を生じたメラノーマ患者の予後は極めて不良であり、転移臓器毎の生存期間中央値と5年生存率はそれぞれ、皮膚・リンパ節・消化管:12.5ヶ月、14%、肺:8.3ヶ月、4%、肝・脳・骨:4.4ヶ月、3%と報告されている(
1)。遠隔転移巣の外科的切除は、適切な患者を選別すれば、切除を行わなかった群と比較して生存期間の延長効果をもたらすことができる。特に、皮膚、皮下組織、リンパ節、肺、脳、消化管、肝臓、副腎については個々の臓器種に限局した転移巣の切除効果が報告されている(
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16)。しかし、病巣が単発で根治的切除が可能な患者は元々全身状態が良く、病勢の進行も緩徐である可能性が高いので、外科的切除の生存期間延長効果は確定的なものではない。
遠隔転移巣の切除によって臨床効果が期待できるのは、単発で完全摘出が可能な場合である(
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4)。臓器種ごとに差はあるが、所属リンパ節転移が先行しない遠隔転移であること、初回治療から転移巣の出現までの期間が長いこと、切除対象病巣の増大が緩徐であること、術前の血清LDHが低いことも予後良好因子とされる。他臓器に転移がないか、あっても進行性の動きがないこと、患者に手術に耐えられる予備能力があることなども考慮すべき条件である。したがって、遠隔転移巣が発見された場合、まず転移巣の動きや新生病巣の出現の有無について数週間程度観察し、その間にCT、MRI、PETなどの画像検査で他臓器転移の有無を検索して、手術の適応を決定する。他方、症状緩和を目的とする場合や、切除が容易な部位(皮膚、皮下組織、リンパ節など)については、他臓器転移や複数の転移巣が存在しても、切除することがある。
臓器別では、皮膚・皮下組織・リンパ節転移については、他臓器に転移がなければ、外科切除が最も迅速で有効な治療法となる。5年生存率は皮膚・皮下組織転移で33%、遠隔リンパ節転移で22%である。なるべく狭い切除マージンで完全に摘出する(
5)。肺転移については、上述の良い因子を持つ症例を対象に完全切除を行えた場合、生存期間中央値が30ヶ月で、5年生存率20.7-29%と報告されている(
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8)。根治的切除が可能な肺転移巣は化学療法よりも外科的切除を選択することが考慮される。脳転移については、単発で術前の神経学的な症状がなく、根治的切除可能なことが予後因子であり、78%で症状緩和効果が得られる(
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10)。症状緩和を目的とする場合は放射線療法(定位照射)と比較し、慎重に適応を決める。消化管転移については、良い因子の患者に根治的切除が行えれば、生存期間中央値14.9-48.9ヶ月、5年生存率18-28.3%と報告されている(
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以上の報告は全てエビデンスレベルIVだが、信頼できる多数の研究が集積されているので、推奨度をBとした。