推奨文:白人では、ほくろ(後天性色素細胞母斑)の個数が多い者は表在拡大型メラノーマを発生する危険性が高いといえる。日本人では高いエビデンスレベルの研究はないが、色白(紫外線暴露で皮膚が赤くはなるが、色素沈着をおこさない)で、ほくろの数が多い者は注意すべきであろう。
解説:後天性色素細胞母斑(acquired melanocytic nevus; AMN)の個数とメラノーマ(MM)発生のリスクについては、欧米白人において多数の症例対照研究が実施され、いずれの研究においてもAMNの個数が多いとMM発生の危険性が高まることが示されている。欧米におけるAMNとMMの関係の評価において注意すべきことは、白人のMMは大多数が表在拡大型黒色腫(SSM)であること、AMNを通常型母斑と異型母斑(atypical nevus, dysplastic nevus; AN)に分けて考察している研究が多いことである。ANは臨床的に大型、不整な斑状病変で、組織学的に独特な横広がりの病巣であるとされるが、その診断基準と概念的位置づけは必ずしも確立されたものではない。
オーストラリアのMM患者244人と対照276人の全身のAMNを調査した結果、100個以上のAMNを有する者のMM発生リスクは10個以下の者の12倍であることが示された(
1)。英国におけるMM患者426人と対照416人の全身のAMNを調査した症例対照研究にて、ANを4個以上有する者は、ANを有さない者に比べ、MM発生のオッズ比(odds ratio; OR)が28.7ときわめて高い値を示した(P<0.0001)。通常型のAMN(径2mm以上)についても、100個以上有する者は、4個までの者に比べ、ORが7.7と有意に高い(P<0.0001)ことが明らかにされた(
2)。米国のMM患者716人と対照1014人の全身について2mm以上のAMNの個数を検索した結果、25個のAMNを有する者のMM発生のORを1とすると、25-49個では1.4、50-99では3.0、100以上では3.4となった(
3)。イタリアのMM患者542人[うちSSMが391例、結節型が72例を占め、肢端黒色腫(ALM)は22例に過ぎない]と対照538人について全身のAMNを調査したところ、径2-6mmのAMNの個数、径6mm超のAMNの個数が、それぞれいずれも独立にMM発生リスクであることが示された。とくに2-6mmのAMNが46個以上、6mm超のAMNが5個以上の者はきわめて高い有意差でもってMMを発生するリスクが高いことが明らかにされた(
4)。
日本人におけるほくろの数とメラノーマのリスクの研究はRokuharaらが報告しているのみである。それによれば、82人のMM患者[うちALM50人、非肢端黒色腫(non-ALM)25人、病型不明など7人]と対照600人の全身の2mm以上のAMNを計測し、検討している。その結果、40-59歳、60-79歳の両年齢群でnon-ALM群が対照群に比べ有意にAMNの数が多いことが明らかにされた(
5)。これに対し、ALM患者と対照群の間には全身のAMNの個数に有意差はみられなかった。
以上の研究はすべてレベルIVであるが、良質のものが多く、人種や地域を越えて一貫した結果が出ていることから、推奨度をB〜C1とした。