推奨文:遠隔転移を生じたメラノーマに対して、生存率の明らかな改善をもたらすことが確認された新規治療法は存在せず、いずれも臨床試験としてのみ行われるべきものである。
解説:進行期のメラノーマに対する新規の治療法として、ワクチン療法、遺伝子治療、分子標的薬などの有用性が種々の臨床試験で検討されている。
ワクチン療法の抗原としては種々のペプチドが用いられ、単独で、または樹状細胞、サイトカイン(IL-12、GM-CSFなど)、ウイルス(Fowlpox、ワクシニア、アデノなど)との併用で投与されている。しかし、その有効率は極めて低い。米国National Cancer InstituteのRosenbergは、自験440例の治療成績と他施設から報告された主要な35の臨床試験765例のメタアナリシスの成績から、ワクチン療法によるPR以上の有効率はわずか3.3%であったと報告している(
1)。ワクチンによる腫瘍免疫の誘導を妨げる因子として、TGF-β、IL-10,IL-13などの免疫抑制性サイトカイン、制御性T細胞、抑制性共役分子CTLA-4などがあり、これらの抑制因子の制御が有効なワクチン療法開発の課題とされている。
遺伝子治療は1)サイトカイン(IL-2,IL-7,IL-12,GM-CSFなど)やT細胞共刺激因子(B7-1など)などの免疫刺激因子や、CTLに認識されるメラノーマ関連抗原を腫瘍細胞に遺伝子導入して腫瘍細胞の免疫原性を高める、2)シグナル伝達経路を阻害する、3)自殺遺伝子を導入する、などの戦略で開発が進められている。それらの中では、アポトーシス抵抗因子であるbcl-2のアンチセンス(Genasense)と化学療法剤のダカルバジンの併用療法が注目され、現在、多施設共同第V相臨床試験が進行している。その他の治療については、いずれもごく限られた施設における少数例の治療成績が報告されているだけであり、遺伝子治療の有用性はまだ不明である(
2)。
分子標的薬としては、Raf-1阻害剤であるBAY 43-9006(Sorafenib)が注目される。本薬剤はMAPKシグナル経路を阻害するとともに、主として血管新生に関与するVEGFR-2, VEGFR-3, PDGFR-β、Flt-3, c-KITなどのチロシンキナーゼ受容体を阻害する。Sorafenibとcarboplatin/paclitaxelとの併用による第I/II相臨床試験で部分奏効40%、不変(SD)43%という良好な成績が得られており、現在第III相試験が進行中である(
3)。
遠隔転移を生じたメラノーマに対する新規治療はいずれも臨床試験の段階であり、生存率の明らかな改善が確認されたものは存在しない。