SCC-CQ2
有棘細胞癌患者に術前の画像検査を行うことは有益か
推奨度:C1
推奨文:リンパ節転移を起こしやすい因子を持つ場合や、理学的に転移が疑われる場合は、術前の画像検査が有益である。
解説:有棘細胞癌(SCC)患者の術前画像検査と再発率、生存率との関連を検討した本格的な研究報告はみられない。
 Motleyらが提唱したガイドラインでは、原発巣側の因子として再発、組織所見(深部への浸潤、神経周囲浸潤、分化度)、原発巣のサイズ(2cm以上)、解剖学的部位(耳、口唇、手足、粘膜部)が、また宿主側の因子として免疫不全などを有する場合が、リンパ節転移のリスクに関係するとされている。画像検査を行う症例を選択する際には、これらの因子の有無が参考になろう(1)。しかし、理学的にリンパ節転移を認めない患者に対して画像検査を行うことが、予後を改善するか否かは、現時点では不明である。
 Barzilaiらは頭頸部SCCの22症例を対象とした症例集積研究を行っている(2)。その結果、耳下腺および頚部リンパ節への組織学的転移はそれぞれ68%および45.5%で、潜在性病変は36%および20%、また5年生存率は転移が耳下腺のみでは60%、頚部リンパ節のみでは100%であるのに対して、両方に転移した場合には0%であると報告している。耳下腺およびその周囲リンパ節や頚部リンパ節は最初に転移を起こす部位として重要であり、リンパ節転移を起こしやすい因子を持つ症例に同部位の画像検査を行うことは、手術範囲や術後放射線療法の適否の決定に有益である。
 MRIとCTスキャンの選択については、一般に軟部組織内の進展度や末梢神経や頭蓋内への進展度を見る場合にはMRIを、骨への浸潤の程度やリンパ節の評価のためにはCTスキャンを用いる(3)。Nemzekらは10例のSCCを含む19例の頭頸部癌の症例集積研究を行い、MRIによる神経周囲浸潤の評価に関して、診断精度は95%と高かったが、神経周囲浸潤の広がりを正確に判断できた症例は63%であったと報告しており、切除範囲の決定に際し注意が必要である(4)。
 以上より、すべてのSCC患者に対して画像検査を行う必要はなく、慎重な病歴聴取と理学的検査が優先される。Motleyらが指摘したリンパ節転移を起こしやすい因子を持つ場合や(1)、瘢痕や慢性の皮膚潰瘍の合併によって触診が困難な場合には、術前の画像検査は安全な切除範囲の決定のために有益と考えられる(3,5,6)。また、再発と関連する因子である神経周囲浸潤の有無を術前に把握することは、術後補助療法の適否を決める上で有益と考えられる(7)。遠隔転移の検索は、既に所属リンパ節転移が明らかな患者については、所属リンパ節領域の根治的手術の適応を決めるために必要であるが、予後の改善にどの程度寄与するかは不明である。リンパ節転移のないSCC患者が遠隔転移を発生することは極めて稀であるので、遠隔転移検索のための画像検査は適用症例を慎重に選択すべきである。