SCC-CQ4
有棘細胞癌の原発巣に対し、Mohs手術を行うことは有益か
推奨度:C1
推奨文:Mohs手術は比較的低侵襲で、かつ術後の再発率が低いので、通常の外科的切除と比較し、利点を有する。しかし本療法は複雑な手技であり、習得に特別な訓練を要し、標本作製などに専門的な技師も必要となるため、本邦では実施されていない。
解説:Mohs手術は顕微鏡レベルで腫瘍が完全摘出されているか確認することができるという利点を有している。一方、通常の外科的切除では、腫瘍辺縁の一部のみを病理学的に評価していることになり、再発も珍しくない(1)。
 有棘細胞癌(SCC)に対するMohs手術と通常の外科的切除の術後成績の比較に関して、Roweらによる症例集積研究がある。彼らの報告では、5年以上長期観察した皮膚原発巣の再発率は、外科的切除群では8.1%であるのに対し、Mohs手術群では3.1%、また局所再発病変の再発率は、外科的切除群では23.3%であるのに対し、Mohs手術群では3.1%と低かった。また神経親和性を示す症例における再発率は、外科的切除群では47.2%であるのに対し、Mohs手術群では0%であった。さらに腫瘍径が2cm以上の症例の治癒率は、外科的切除群では58.3%であるのに対し、Mohs手術群では74.8%と高かった。SCCは再発すると転移率が30.3%と高くなり、転移後の生存率は34.4%と低下するので、著者らは術後の再発率が低いMohs手術を推奨している(2)。
 再発率が低いというMohs手術の利点は、Leibovitchらの報告でも確認されている(3)。彼らは1993-2002年にMohs手術を受け、The Australian Mohs surgery databaseに登録された症例(症例数1263例、61.1%が初回治療例、38.9%が再発例、96.5%が頭頸部原発SCC)に関する症例集積研究を実施した。その結果、再発例は、初発例よりサイズ(p<.0001)や術後欠損が大きく(p<.0001)、Mohs手術の切除回数が多く(p<.0001)、術前の臨床的マージンを超えた浸潤を示す症例が多かった(p=0.02)。さらにMohs手術後の5年間の再発は全体で3.9%であり、初回群2.6%、再発群5.9%であり、転移を生じた症例はみられなかった。再発と関連する主な因子は、再発の前歴、術前の臨床的マージンを超えた浸潤とMohs手術の切除回数であった(腫瘍の存在部位、組織型、初診時のサイズ、術後欠損と5年間の再発率との間に関連は認められなかった)。この試験には高リスク症例が多く含まれていたにもかかわらず、Mohs手術によって局所再発率が低かったことから、完全切除の重要性が支持される。
 以上より、Mohs手術は再発率が低いという利点があり、外科的切除と比較してより有益といえる。しかしその一方で、この方法は複雑であり、手技の習得のために特殊な訓練を要し、また一連の施術のために時間と人手を要するという欠点があり、現時点ではわが国では行われていない。