解説:外科的治療は基底細胞癌(BCC)に対する最も確実な治療である(
1)。ただし、切除辺縁に関する研究を評価するためには、BCCの増殖動態の多様性を考慮する必要がある。病型、組織像、大きさ、部位など再発率に影響する因子は多数あり、適切な切除マージンを設定する場合にはこれらの因子を考慮しなければならない。
BCCは肉眼的境界を越えた不規則な病変の拡がりを示し、注意深く切除しても1/3の症例では切除断端がぎりぎりか、もしくは陽性となる。組織学的な拡がりに関しては、水平方向の凍結切片を用いるMohs手術による研究が行われている。それによると20mm以下の境界明瞭な小さいBCCにおいては、辺縁3mmで85%の症例で腫瘍が取りきれている。さらに4〜5mmの辺縁をとれば、約95%の症例で腫瘍の残存はない。結果的には境界明瞭な小さなBCCでも、約5%において4mm以上の潜在的な病変の拡がりがあることになる(
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3)。この拡がりは組織型によっても若干異なり、斑状強皮症型では切除範囲を拡げれば完全切除率は次のように増加した。即ち、3mmのマージンでは66%、5oマージンで82%、13〜15mmのマージンを取れば95%となる(
2)。組織学的に浸潤の強いタイプは病変の拡がりも大きく、正常皮膚を含めた十分な切除を行う必要がある。
手術療法の絶対適応は頭頚部の低リスク部位、体幹・四肢末端部で組織学的に浸潤傾向の少ないもの、サイズの小さい場合である。この条件であれば4〜5mmの切除マージンによって95%以上の5年治癒率が期待できる(
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6)。
他方、高リスク部位では明らかに治癒率が低下する。再発例では全体の5年治癒率が83%であり、さらに原発巣の直径が15mm以上、20mm以上、30mm以上に区分して調査すると、各々治癒率は88、83、77%と低下する(
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7)。口唇、鼻、鼻周囲、眼瞼周囲、耳、被覆頭部では57〜82%まで治癒率が低下する(
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8)。612例の顔面例(418例の原発巣と204例の再発例)に対して、標準的な外科的手術とMohs 手術を選択して比較追跡調査を行ったところ(
9)、手術療法における再発率は原発巣(102例)と再発巣(102例)で各々3%、8%であった (
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12)。高リスク部位に対しては、術中迅速病理検査やMohs手術を併用して再発率の低下を図るべきある(
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15)。同様に再発病巣も手術による治癒率が明らかに低下するので、辺縁の切除範囲を広くとり、5〜10oとすることが妥当である。