MM-CQ3
巨大型の先天性色素細胞母斑は、患者のメラノーマによる死亡を減少させるため、予防的に切除すべきか
推奨度:B〜C1
推奨文:巨大型の先天性色素細胞母斑患者がメラノーマを発生する危険性は有意に高いので、早期の予防的切除を選択肢の一つとして考慮すべきである。しかし、不完全切除となることが多く、取り残し部位や深部組織からのメラノーマ発生は防止できず、ときに合併する神経皮膚黒色症による予後不良例も少なくない。
解説:先天性色素細胞母斑を病変の最大径で分け、径20cm以上のものを大型とするKopfらの分類法が広く用いられている。しかし、「巨大型」の明確な定義は存在せず、Zaalらの文献検索では巨大型先天性母斑のサイズについて少なくとも7つの異なる定義が使われていることが判明した(1)。実際には径20cm以上を大型の先天性色素細胞母斑(LCMN)として検討した研究が多い。
 LCMNの患者がメラノーマ(MM)を生じる危険性の高いことは多くの研究で明らかにされている。Zaalらが1966-2002年の35文献を収集、検討した結果によれば、巨大型先天性母斑にMMが生じる危険性は報告によって差がみられるが、Kopfの定義でのLCMNがMMを発生する平均リスクは8.2%と計算された。その発生年齢の平均は11.1歳であった(1)。WattらによるLCMNのMM発生リスクに関するシステマティックレビューでは8研究が採択された。それによれば、LCMN432例の内12例(2.8%)で皮膚にMMの発生がみられ、MMを生じる標準化死亡比(standardized morbidity ratio)は2599(95%CI:844-6064)となった(2)。米国ニューヨーク大学で1979年から登録された205例の解析では、登録時の平均年齢1.2歳(0-64)、追跡期間の中央値4年で、10例(4.9%)(95%CI:1.9-7.85)にMMが生じた。このうち7例は3歳までにMMが生じている。MMを生じた10例中9例でLCMNは体幹に存在し、内5例でMMは母斑病巣内に生じたが、1例では深部組織に発生していた。3例ではMMが皮膚以外に生じた(CNS2例、後腹膜腔1例)。前向き調査が可能な170例では4例にMMが生じており、LCMNがMMを生じる標準化死亡比は324(95%CI:140-919)と計算された(3)。オランダにおける1989-2000年に登録された大きさを問わない先天性色素細胞母斑の調査では、平均4.7年の観察期間(19,253人-年)に15例のMMがみられ、全標準化罹患比(overall standardized incidence rate)は12.2(95%CI:9.6-15.3)となった。LCMNに限るとMM発生のリスクは一般人に比べて51.6%高いことが示された(4)。
 以上のように、LCMNがMMを生じる危険性が高いことは確かなので、早期切除を選択肢の一つとして考慮すべきである(5)。ただし、不完全切除となることも多く、また深部組織や皮膚病変部以外にMMが発生することも稀ではない。切除後の再建も難しいことが多い。さらに、本症にはしばしば神経皮膚黒色症 (neurocutaneous melanocytosis)が併発し、それによる予後不良例も少なくない。したがって、皮膚病変を可及的に切除しても、深部や他部位におけるMMの発生や神経皮膚黒色症の発症を防止することはできない。以上より、推奨度はBではなく、B〜C1とした。