解説:有棘細胞癌(SCC)の多くは原発巣にとどまるので、手術療法を中心とした局所療法単独で約90%の症例が治癒する(
1)。一方、2〜5%の症例では初診時に所属リンパ節転移が認められ、積極的な治療を行ってもその予後は不良である(
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6)。初期治療後にリンパ転移を生じてくる症例は全体の5%程度と少ないものの、再発後は治療に難渋することが少なくない。そこで、再発の危険性が高い症例には手術療法後に放射線療法の適用が考慮される(
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3)。
術後補助療法としての放射線療法に関するこれまでの報告はすべて後ろ向き研究であり、術後放射線療法の意義を検討したランダム化比較試験は存在しない。再発の危険性の高い症例に対し術後照射を行うことで再発率が低下する可能性はあるものの、生存率が向上するかは不明である(
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10)。術後照射の適応として、可能な限りの切除を行っても十分な切除断端が確保できない症例や、神経周囲浸潤例、多発リンパ節転移例などがあげられている(
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8,
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10,
11)。
SCCの術後照射としての至適照射スケジュールは確立していないが、頭頸部腫瘍における術後照射の有効性と有害事象の臨床データを参考にすると、1回線量を1.8〜2.0 Gyとして総線量50〜70 Gy程度が妥当と考えられる。ただし、治療する部位と範囲により周囲正常組織の耐容線量は異なるため注意が必要である。適切な照射範囲に関しても統一見解はない。再発病巣、脈管浸潤が著明な腫瘍、神経周囲浸潤、大きな腫瘍、軟部組織浸潤例などではリンパ節転移を生じる危険性が高いとされるので、症例によっては所属リンパ節を含めた放射線療法を考慮する (
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8,
11)。
また、放射線療法は遠隔転移を有するSCC患者の症状緩和に有用な場合があり、生活の質の改善と維持を目的に適応が検討されることもある。なお、SCCに対する術前照射の意義を検討した報告は少なく、その有用性は不明である。