国際活動

留学体験レポート:The Francis Crick Institute - 宮内俊成

2025年1月8日公開

所属

北海道大学 大学院医学研究院 皮膚科学教室

留学先

The Francis Crick Institute, London, UK
Chromosome Replication Laboratory (John Diffley lab.)

はじめに

私は北海道大学 皮膚科学教室で2021年3月に博士号を取得し、同教室で1年間助教として勤務した後、2022年5月に渡英、6月からFrancis Crick Institute(以下Crick)のChromosome Replication Laboratoryでポスドク生活を送っています。

Francis Crick Institute

Crickは英国の学術振興財団であるMedical Research Council(MRC)、2つの医学研究支援団体(Cancer Research UK, Wellcome)、ロンドンにある3つの大学(University College London, Imperial College London, King’s College London)の共同事業として立ち上げられ、2016年11月に正式にオープンした生物医学研究所です。施設名は英国で最も著名な科学者の一人であるフランシス・クリック博士の科学的業績を讃えて、その名がそのまま使用されています。ノーベル賞受賞者のPaul Nurse博士が所長を務め、2000人以上の職員と130以上の研究グループが所属しています。研究者は世界各国から集まり非常に国際色豊かですが、日本人は意外と少なく、2024年12月現在で10人程度(うちMDは2名)しかいません。
Crickはロンドン中心部のキングスクロス駅、セントパンクラス駅のすぐ隣にあり、研究所内外の造りは非常にモダンで、研究・コラボレーションがスムーズに進むようあらゆるシステムが構築されています。また、自分の研究を行うだけでなく、Crick内外の研究者や企業とのコミュニケーションを促す場や分野外の研究に触れる機会も多く設けられています。
2024年6月に天皇陛下が英国訪問された際には、公式行事の一つとしてCrickも訪問されるなど、英国肝煎りの研究所であることが伺えます。

留学までの経緯

私は博士課程のプロジェクトとして遺伝性角化症で見られる自然治癒現象の分子メカニズムを研究していました。この研究を通じてDNA複製や細胞周期の研究領域に触れ、時折当該分野の基礎研究学会にも参加していました。ある学会で現在のグループリーダーであるJohn Diffley博士の講演を聞く機会があり、その内容に感銘を受けて学会後にコンタクトをとったところ、幸いにもポスドクとしてグループに加わる機会をいただくことができました。

Diffley labでの研究生活

Johnは約40年に渡りDNA複製と細胞周期制御に関する基礎研究を行っており、当該分野の第一人者です。グループメンバーは15人程度で、国籍は10ヵ国ほどに及びます。それぞれのバックグラウンドは異なりますが、現行プロジェクトとしてDNA複製関連の精製タンパク質を用いた生化学実験を行っている人がほとんどです。私自身はヒト細胞を用いてDNA複製開始前の細胞周期制御(G1-S期の移行制御)を研究しています。
Johnのアイデアや意見をいつでも聞くことができ、また潤沢な予算と設備がある環境で研究できることは非常にありがたいですが、一方で、Johnの指導スタイルはマイクロマネージメントとは真逆であり、ある程度自身での研究遂行能力を求められます。その分、グループメンバー間でのディスカッションも活発で、お互いに良い刺激を受け合いながら日々の研究を行っています。

研究以外のロンドン生活

私は妻と子供2人の4人で渡英し、ロンドン北部のTotteridgeという街に住んでいます。Totteridge周辺の地域には日本人も一定数住んでおり、のどかで安全な地域の一つです。渡英当時5歳と3歳だった子供たちは共に現地の学校に通い、英国スタイルの学校生活を満喫しています。また妻もママ友にも助けてもらいつつ、日々の生活を支えてくれています。
ロンドン自体が多くの魅力に溢れていることは言うまでもありませんが、ロンドンからはイギリス国内だけでなく、ヨーロッパ各地へのアクセスもよく、日本国内を移動するような感覚で旅行を楽しむことができるのは大きな魅力の一つです。
さらに、個人的には家の近くにあるテニスクラブのチームに所属することで、地域の人たちとの繋がりも楽しむことができています。

最後に

臨床医にとっての研究留学は一定期間臨床業務を忘れ、研究のことだけを考えられる貴重な時間です。もちろん留学先でのプロジェクトに集中できますが、自分が将来何をしたいのか、何ができるのかをゆっくり考えられる期間とも言えます。異なるバックグラウンドを持つ人たちと関わり、様々な分野に想いを巡らせられるのは日本国内での皮膚科医生活の中では得られない経験でしょう。もちろん海外で生活していると必ず大変なことや細々としたトラブルも生じます。ただそれらも含め、人生の糧になることは間違いありません。留学を考えている、あるいは留学するかどうか迷っている若手の先生方にはぜひ積極的に挑戦して、貴重な経験をしてもらいたいと思います。
海外留学するにあたり、日本皮膚科学会の留学支援制度による金銭的な援助は大変ありがたいものです。研究留学の機会をいただき、またこの支援制度を利用させていただいていることに感謝しつつ、帰国まで充実した留学生活を送りたいと思っています。


Crickの外観


Crickのエントランスから見上げた様子

 


グループの集合写真


ニューヨークの学会へ参加


テニスのチームメンバーと
クラブハウスで祝勝会

 

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