国際活動
留学体験レポート:Massachusetts General Hospital - 宮地秀明
2025年1月8日公開
米国 ボストン Massachusetts General Hospital, Harvard Medical School
宮地 秀明
留学を志した経緯
2020年春にマウスモデルを用いた皮膚免疫学の研究で大学院を修了した直後、新型コロナウイルス感染症の流行などの影響で研究を続けるための実験環境を十分に維持できなくなり、研究を継続するか臨床に専念するかで大いに悩みました。その頃、縁あってレセプトデータベースを活用した臨床疫学研究やデータサイエンスを学ぶ機会に恵まれました。その後、大学院で学んだ皮膚免疫学の知識と新たに身につけた臨床疫学・データサイエンスのスキルを融合させて、さらにステップアップできる道を模索し始めました。そんな折、以前から論文や書籍、ウェブ記事などで拝見していたProf. Kohei Hasegawaとの面談(当時は海外渡航が難しかったため、オンラインのみ)が実現し、2023年春からの留学を受け入れていただけることになりました。
留学先での研究
現在、Harvard Medical Schoolの主要な教育病院の一つであるMassachusetts General HospitalのProf. HasegawaとProf. Zhuが率いる研究チームにResearch Fellowとして所属しています。大規模な小児アレルギー疾患の多施設共同前向きコホートから収集した臨床データと各種オミクスデータ(ゲノム、マイクロバイオーム、メタボロームなどの網羅的な生体分子情報)を組み合わせ、疫学とデータサイエンスの手法を駆使して解析し、小児喘息・アトピー性皮膚炎・アレルギー性鼻炎などの病因を解明する研究に取り組んでいます。
所属するEmergency Medicine Network(EMNet)の月例ミーティング
留学してよかったこと
各国から集まった多様な診療科・職種のメンバーとともに学ぶ経験は、貴重な財産だと感じています。解析手法の習得はもちろん、専門外の疾患や研究アプローチについても新たな知見を得られますし、ミーティングを通して大規模コホートの運営に伴う実務や苦労にも直接触れることができています。
また、ボストンは世界有数の研究機関や企業が集積する知の拠点であり、病院・大学・企業から届くセミナー情報が毎週たくさん届きます。時間に余裕があるときには興味のあるセミナーに参加して視野を広げることができ、さらにHarvard School of Public Healthで開催される疫学の授業を現地で聴講する機会にも恵まれました。研究室外でも多角的な学びの機会を得られていると実感しています。
Massachusetts General Hospitalの正面玄関
授業を聴講したHarvard School of Public Health
楽しいこと・大変なこと・感じたこと
妻と子供2人とともに渡米し、異国での生活を始めたことは、我が家にとって大きな挑戦でした。しかし、そのおかげで、家族と過ごす時間を確保できるようになり、かけがえのない思い出が増えています。親の心配をよそに、子どもたちの適応能力には驚かされるばかりで、羨ましい限りです。また、街中では子どもに対して優しい視線を感じることが多く、緑や公園も豊富で子育てしやすい環境で過ごせています。
アメリカでは多様な人種・国籍・宗教が混在しており、日本ではあまり意識しなかった背景や文化の違いに触れる機会が増えました。意見を率直に交わし、時に批判し合いながらも互いを尊重する文化は、ともすると同調を第一に考えがちな日本との違いを強く感じます。また、世界各地の紛争や大統領選挙などの影響を日常的に実感することも多く、改めて国際情勢について考えさせられる機会が増えました。
異国での生活には大変なことや不安なことも多々あります。英語でのコミュニケーション、煩雑で時間のかかる行政手続き、排水管やお風呂のトラブルなど(幸い、アパートの管理人さんが親切丁寧でとても助かっています)、大小さまざまな問題が起こります。さらに、歴史的な円安やアメリカ国内のインフレが留学に与える影響は深刻です。住居費をはじめとする生活費は毎年上昇するうえ、契約更新時には家賃が引き上げられるのが一般的です。2010年代と比べると円の価値が3分の2ほどにまで下がっていることもあり、銀行口座の残高に嘆息することもしばしばです。それでも、普段は倹約に努めながら子どもの習い事や旅行など今しかできないと思うことには投資し、臨機応変に留学生活を楽しんでいます。
ボストン到着初日の空港にて。
引越し代を節約するために、手荷物で持てる範囲に荷物を厳選して渡米しました。
これから留学を考えている先生へ
海外留学は自分自身や日本社会を客観的に振り返る、貴重な機会になります。留学中に将来に繋がる大きな研究成果を出せるのがもちろん理想ですが、仮に期待どおりの成果に至らなかったとしても、多くの学びや経験を得られると実感しています。海外留学にはさまざまなハードルがあるかもしれませんが、異文化の中で生活し、日本と共通する点や異なる点を肌で感じる経験は、その後の人生を豊かにしてくれるのではないでしょうか。もし迷っている方がいらっしゃれば、ぜひ思いきって一歩踏み出してみることをおすすめします。