国際活動

留学体験レポート:Cincinnati Children’s Hospital Medical Center - 山口麻里

2025年1月22日公開

留学体験記:オハイオ州シンシナティでの奮闘記
山口麻里(アメリカ Cincinnati Children’s Hospital Medical Center)

2023年4月、家族5人でアメリカのオハイオ州シンシナティにやってきました。当時6歳、2歳、0歳7ヶ月という3人の子どもたちを引き連れての大移動。華々しい新生活の始まり…になる予定だったのですが、現実はそう甘くありませんでした。


長い旅路を経てシンシナティ空港に到着した、疲労困憊の子供たちと大量の手荷物

保育園探しという名のアメリカ版サバイバルゲーム

まず夫が先に、Cincinnati Children’s Hospital Medical Center(CCHMC)で研究を開始しました。子どもの預け先が決まったら私も研究留学を始める計画でしたが、ここで最初の壁が立ちはだかります。アメリカの待機児童問題です。なかなかにシビアでした。
長子は地元の小学校に通えたものの、下2人の保育園探しが難航。問い合わせる保育園、どこも「空きなし」。特に0歳児に至っては「いつ入れるか見通しすら不明」と言われる始末。「アメリカ人は妊娠検査薬が陽性になったその日から保活を始める」という話を聞き、「そんな無茶な!」と目を剥きました。
知り合いに聞き回ったり、片っ端から保育園にメールを送るも返信はわずか、しかもやはり見込みなし。入園の可能性?それはもはや都市伝説。「これは私、専業主婦としてアメリカ生活終了の運命…」と諦めかけた頃、奇跡が起きました。ある保育園が大規模な買収を受け、枠に余裕ができたとかで、なんとか下2人の入園が決定!2023年8月末、ようやく第一関門突破です。

お金の猛威、円安と物価高騰の恐怖

次なる問題は資金。アメリカ生活がこれほどまでに高額だとは想像を超えていました。家賃、保育料、日用品、すべてが日本の庶民感覚を遥かに超越した価格設定。30年ぶりの水準といわれる円安がつらい、つらすぎる。夫の助成金と給与だけでは家計は火の車どころか、火柱を上げる暴走機関車状態。
「将来留学したいなら、とにかく貯金が大事よ。アメリカは質と安全をお金で買う国よ」。私が大学院生だった当時に岡山大学の准教授であった青山裕美先生(現・川崎医科大学教授)の言葉が、何度も頭をよぎります。もっと早くから節約に力を入れるべきだったと過去の自分を振り返りながら、資金確保に奔走する日々を過ごしました。
そんな中、締め切り間近だった日本皮膚科学会の留学支援制度を見つけ、必死で応募しました。そして、ありがたいことにその制度に選出いただけたおかげで、ようやく2024年初春から私の研究生活がスタートしたのです。


シンシナティの街並み

CCHMCでの挑戦と学び

私が所属するCCHMCは、全米小児病院ランキングで第1位を誇る名門機関です。2023年には全米小児病院ランキングでトップに輝き、さらにNIHの研究予算獲得額でも全米屈指の実績を誇っています。その中のアレルギー・免疫学部門(Allergy and Immunology)は、10の研究室が連携し、日々切磋琢磨しながら知識や技術を共有する活気ある環境です。
そのうちの私が所属するShoda labでは、アレルギー疾患に関連する2型炎症の研究を主に行っています。そこで私は、ステロイド応答性における細胞特異的な分子・代謝機序の解明や、物質Xおよびその誘導体による細胞特異的な2型炎症抑制メカニズムの評価をテーマに研究を行っています。
Shoda labのメンバーは約半数が日本人ですが、部門全体(Division)は世界中から集まった研究者たちによる非常に国際色豊かな環境です。その中で、多様な背景や視点を持つ仲間たちと交流しながら、貴重な経験を積ませていただいています。


CCHMC外観(とても大きな施設で、まだ奥の方に続いています)

UJAでのDEIA活動

さらに、UJA(United Japanese researchers Around the world)のDEIA部門にも、御縁があってワーキンググループメンバーとして参加し、活動しています。DEIAとは、Diversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包摂性)、Accessibility(アクセシビリティ)の略です。多様性に富んだアメリカという環境で、これらの価値観をさらに深く学び、実践する活動に携われることは、非常に貴重な経験となっています。


小学校の行事『伝統と文化を楽しむ夜』での1ショット。世界の広さと多様性を感じる日々。

ワンオペ育児と「てんやわんや」の日々

そんな中でも、3人の子どもを育てながら研究を続ける日々は、本当にてんやわんやの連続です。夫は極めて多忙で、家事や育児のほぼ全てを私がワンオペで担当。こう聞くとスーパーウーマンと思われそうですが、全然そんなことはありません。できないことは諦め、妥協を重ね、失敗しながらなんとかやっています。
「こんな雑な家事育児で子供たちに申し訳ない」と思うことも多々ありますが、このアメリカでの生活が子どもたちにとっても何かしらの学びになると信じ、家族とともに成長する日々です。

忙しさの中に見つけた幸せ

このように日々忙しく、家事や研究に追われる生活ですが、ピペットを握って実験をしていると心がすっと軽くなり、充実感を覚えます。保育園が決まらず専業主婦だった頃よりも、忙しい今のほうが精神的には健康で、前向きに毎日を過ごせています。「やらずに後悔するよりやって後悔する」という信念のもと、今しかできない経験を全力で楽しみ、未来の自分や家族の糧にしていきたいと思っています。
シンシナティの空の下、支えてくださるすべての方々に心から感謝を込めて。どんなに困難でも、この経験が私や家族にとって大きな財産になると信じています。いつかこの経験を胸に日本へ戻り、新たな挑戦へとつなげていきたい――そんな思いを抱きながら、今日も奮闘中です!


とにかく空と緑がきれいです!

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