国際活動
留学体験レポート:University of California, San Diego - 澤田雄宇
2025年2月17日公開
サンディエゴ留学生活
澤田雄宇 産業医科大学皮膚科
日々の臨床の中で疑問を持ち、それを探究する楽しさを知ったことが、研究への関心を深めるきっかけとなりました。特に、産業医科大学皮膚科で戸倉新樹教授のもと、臨床研究に携わる中で、その魅力を実感しました。その後、さらに研究への興味が高まり、京都大学大学院医学研究科皮膚科学教室への国内留学を経験しました。しかし、産業医科大学皮膚科に復帰した後も海外留学には強い関心がありつつ、生活環境の変化や資金面での不安から、なかなか踏み出せずにいました。そんな迷いを振り払うほどの強い後押しをしてくださったのが、京都大学皮膚科の恩師・椛島健治教授でした。「澤田君の性格には、このラボの雰囲気が合っていると思う」という言葉を信じ、実際にラボを見学し、Richard Gallo教授との面接を経て、ついに留学が決まったのです。
渡米初日のトラブル
渡米初日から思わぬトラブルに見舞われました。本来ならサンディエゴへ直行するはずが、航空機の不具合により急遽バンクーバーで一泊することに。こうして、波乱含みの留学生活が幕を開けました。翌朝、ホテルの窓から朝日を眺めながら、安全な旅を願い、改めて気持ちを引き締めてサンディエゴへと向かいました。
到着初日は、アパートメントの契約手続きなどに追われ、あっという間に過ぎていきました。そして翌日、さっそくRichard Gallo教授との面会が実現し、今後の研究についてディスカッションを行いました。Galloラボは皮膚の細菌叢研究において世界の最前線を走る研究室であり、主に免疫学を扱ってきた私にとっては、まったく新しい分野への挑戦でした。そのため、初心に戻る気持ちで細菌学的手法を一から学びました。その姿勢が功を奏し、わずか半年で論文がアクセプトされる成果を得ることができました。しかし、当時はすでに新たな研究テーマに取り組んでいたため、論文の受理よりも次の課題への関心の方が強く、それほど大きな喜びを感じなかったのを覚えています。
海外での新たな挑戦と成長
留学中は新たな研究テーマに取り組み、これまでにない技術を習得しながら研究を進めていました。異なるラボや研究施設で技術指導を受ける機会も多く、1年前の自分では想像できなかったスキルを身につけていることを実感しました。こうした経験を通じて、研究の進め方だけでなく、新たなアイデアの発想や、人生そのものに対する考え方にも大きな影響を受けました。
アメリカの研究室では、出勤時間も退勤時間も個人の裁量に任されており、マイペースに働くスタイルの人が多くいました。しかし、私は必ずしもそのスタイルに合わせる必要はないと考えました。産業医としての経験から、限られた時間をいかに有効に使うかが重要であることを理解しており、渡米後はその意識がさらに強まりました。そこで、私は朝4時から実験を始めるというスタイルを選択しました。ラボの機器が自由に使える時間帯を活用することで、実験を効率よく進め、翌日に持ち越さずに完了させることができました。
また、作業の流れをスムーズにするために、デスクワークの場所を実験ベンチの近くに配置したり、実験後の整理整頓を徹底したりと、細かな工夫も積み重ねました。こうした取り組みがどれほど成果に直結していたかは明確には分かりませんが、少なくともストレスの軽減や疲労の抑制には確実に貢献していたと感じています。帰国後も、この経験を活かし、より効率的で充実した研究環境を作り上げていきたいと考えています。
おわりに
留学を検討している先生方に、ぜひ考えてほしい問いがあります。「もし海外留学をしなかった場合、10年後、20年後に後悔しないだろうか?」この問いに対して少しでも迷いがあるなら、留学を決断する価値は十分にあると思います。留学の目的や得られるものは人それぞれ異なりますが、その経験の価値を決めるのは自分自身です。
また、渡航前に抱えていた漠然とした不安は、一歩踏み出すごとに自然と薄れていきました。資金面の不安についても、努力を続けることで周囲の支援を得られることが多く、特に留学先のボスや同僚が手を差し伸べてくれる場面がありました。細かい悩みにとらわれすぎず、思い切って前に進むことが大切だと感じています。
どんなに高く見える壁も、実際に向き合ってみると乗り越えられるものです。留学を通じて、それを実感しました。ぜひ勇気を持って最初の一歩を踏み出してください。その先には、想像以上に広がる世界が待っています。限られた人生の中で、新しい挑戦を楽しんでください。
左図:研究している一場面。
右図:ラボメンバー全員と共に。