国際活動

留学体験レポート:Rockefeller University - 宍戸菜穂美

2025年2月17日公開

留学先

米国Rockefeller University皮膚科のJames G. Krueger教授のラボへ2022年8月よりPostdoctoral fellowとして留学しています。

留学先での仕事

慢性皮膚炎症性疾患として乾癬、化膿性汗腺炎、腫瘍ではリンパ腫の研究を行っています。最初のプロジェクトでは化膿性汗腺炎のトンネル形成におけるgrowth factorの役割について研究し、目標としていたRNA-seqおよびscRNA-seqの手法を習得できました。2年目からはRockefeller hospitalで実施されている乾癬に関する2つの臨床治験チームに参加し、主にtranscriptome解析を担当し論文にまとめました。人種間での乾癬transcriptomeの比較は非常に興味深い結果を示しました。日本でも治験分担医師として臨床試験には携わってきましたが、データ解析側に参加することで、臨床試験を新たな視点から捉えることができました。

留学生活について

アメリカ全体の物価上昇と為替変動は生活に大きく影響してきます。Rockefellerはポスドクに対する住宅や保険などのbenefitが充実しており支出は抑えられていますが、留学前にはこれらの生活にかかる費用についてしっかり調査することをお勧めします。また、マンハッタン地区は他と比べて安全な方ですが、それでも日本の安全水準には及びません。大学のコミュニティの範囲内で住居、学校、その他、生活が完結する環境に身を置けることを有難く思っています。大学のコミュニティ内にいることで日本人研究者、他ラボの研究者と自然に知り合えるのは大きなメリットだと思います。ただ研究室にいても友人は増えません。大学主催のポスドク交流イベントに積極的に参加することで人脈は広げられると思いますが、私にはそういった社交性が欠けていたため、住居や学校での親同士のつながりから自然と知り合いが増えたのは大変助かりました。

人種、LGBTなどにおいて、ニューヨーク州は他州と比べ多様性を尊重する風土があり、様々なバックグラウンドの人が住んでいます。それらのことを知識として知ってはいたものの、無意識の抵抗感があるのは自分の方だったと気付かされ、自らの保守的思考にがっかりしました。日本という同質的な環境の中で育った影響でしょうか、アジア人との会話の方が緊張なく話せている自分がいることに気づき、自分が日本人であることを強く意識させられました。

言語の面では大学の半数以上が非ネイティブだと思います。それでも私よりは皆自信をもって堂々と話しているように見えます。私はどうしても語学力の不足を恥じて声が小さくなってしまう、これは3年目の今も克服できておらず、また自分にがっかりしています。そのように自分に失望する場面は多々あるのですが、一方で子供はそれらのDiversityや言語の壁を軽々と乗り越えており、尊敬しています。

これから留学を考えている先生へ

留学の経済的プランは慎重に立てる必要があります。助成金の獲得をしても、為替変動を考慮に入れるべきです。またポスドクに提供される医療保険などの福利厚生も留学先候補間で比較することが重要です。

留学後は、現地のgrantに挑戦するのも良いと思います。自身で獲得したgrantであれば、2つ目以降のプロジェクトを主導する際に有利になります。またアメリカのラボも必ずしも安定しているとは限らず、ラボの財政事情で突然の解雇もあり得ます。実際に2025年現在、Trump政権になった翌日にNIH freezeです。こういった予期せぬ大打撃が起こり得るため、研究室の給与以外に自分でコントロールできる外部資金があれば、より安心して研究に専念できます。

数年先に留学を考えている先生にはUSMLEの取得を勧めます。STEP1は日本で受験可能です。皮膚科領域で留学を検討する場合、中国・韓国の皮膚科医を含む他国のポスドク候補者の中にUSMLE保持者が増えています。同じポスドクであってもできる業務範囲が変わってくるため、USMLEを持つ候補者の方が採用される可能性が高まります。

留学について悩んだら多くの留学経験者に話を聞くのをお勧めします。ラボの研究内容等だけでなく、生活に関する具体的な情報も重要です。アメリカは州ごとに法律が異なり、民族性や宗教、文化も地域によって大きく異なります。留学経験者から情報を得ることで具体的イメージを掴み、自分に合った場所を絞り込むことができると思います。

最後に、留学の機会を与えて頂いた東京大学皮膚科佐藤伸一教授、研究室PIのDr. Krueger、そして支援いただいた日本皮膚科学会に心より感謝申し上げます。


ロックフェラー大学正門

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