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悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)の適切な切除を目指すための共同提言
公益社団法人 日本皮膚科学会
公益社団法人 日本整形外科学会
悪性軟部腫瘍(軟部肉腫)に対して、十分に術前の鑑別診断・画像評価が行われず、診断が曖昧なまま切除されること(無計画切除:unplanned excision)が増加傾向にあります。無計画切除が行われる診療科については一般外科、整形外科に次いで皮膚科、形成外科に多いとされています1)。また、国立がん研究センター中央病院のデータによると、軟部肉腫無計画切除例の29%が形成外科、25%が整形外科、25%が一般外科、13%が皮膚科によるものと報告されています2)。
軟部肉腫は臨床的に特異的な所見はあまりなく、触診や視診のみで良性病変と軟部肉腫の鑑別は困難です。5cmより大きい腫瘤、増大傾向を有する腫瘤、筋膜下の深在性の腫瘤は軟部肉腫の可能性を十分に考慮する必要があるとされています3)。軟部肉腫は、MRI(造影が望ましい)等で腫瘍の性状と進展範囲を把握した上で、適切なアプローチで生検を行い、生検の結果に基づいて手術(広範切除)を行うことが原則です。しかし、無計画な生検は後の手術に悪影響をもたらすので、軟部肉腫が疑われた場合は、生検など侵襲的な検査を行う前に専門施設への紹介が推奨されています。その理由は、生検を行う際は、①広範切除を想定した皮切線上で四肢長軸に沿って皮切を行う、②腫瘍に汚染される組織を最小限にする経路を選択する、③止血を十分に行い腫瘍播種を予防するなどの原則があり、無計画な生検によって腫瘍の播種が生じると、広範切除が困難となり、患肢を失う原因にもなるためです。また5cm以下かつ表在性の腫瘤であっても、臨床的に明らかな良性疾患を除き、術前の十分な画像診断(MRIなど)と鑑別診断の想定なしに安易に切除を行うことは慎む必要があります。
上記の原則に基づくことなく、軟部肉腫の無計画切除を行った場合は、腫瘍の再発リスクが高く、速やかな追加広範切除が必要です。12週以内に追加広範切除を行うことで予後の悪化を最小限にとどめることができるとされています4)。追加広範切除に際しては、無計画切除により生じた術後血腫を考慮した範囲を切除しなければならず、すべての手術において十分な止血や圧迫固定は必要とされています。腫瘤性病変の切除後に、病理検査で軟部肉腫となり無計画切除と判明した際には速やかに専門施設への紹介をお願いいたします。
日本皮膚科学会は、地域の医療施設からの皮膚・軟部腫瘍に関する医療相談あるいは患者紹介窓口として、「皮膚・軟部腫瘍診断治療相談コーナー」を開設しています。日常の皮膚・軟部腫瘍の診断や治療でお困りのことがございましたらご利用ください。
また、日本整形外科学会は、地域の医療施設からの骨・軟部腫瘍に関する医療相談あるいは患者紹介窓口として、「骨・軟部腫瘍診断治療相談コーナー」を開設しています。日常の骨・軟部腫瘍の診断や治療でお困りのことがございましたらご利用ください。
文献
1) Hoshi M, Ieguchi M, Takami M, et al. Clinical problems after initial unplanned resection of sarcoma. Jpn J Clin Oncol. 2008; 38:701-709
2) 前田周作ほか 軟部肉腫に対するunplanned excisionの臨床的検討 第1回日本サルコーマ治療研究学会(2018年2月)
3) 日本整形外科学会:軟部腫瘍診療ガイドライン(2版). 南江堂, 東京, 2012
4) Funovics PT, Vaselic S, Panotopoulos J, Kotz RI, Dominkus M. The impact of re-excision of inadequately resected soft tissue sarcomas on surgical therapy, results, and prognosis: a single institution experience with 682 patients. J Surg Oncol 2010;102: 626e33.