Q6この病気にはどのような治療法がありますか
現在のところ遺伝子を操作して根本的に病気を治すという方法はなく、基本的には外科的切除などの対症療法が中心です。最近は、mTORC1阻害剤の内服薬が本症に対して使用されています。また本症の皮膚病変に特化した治療薬として、mTORC1阻害剤の塗り薬も使用される様になってきました。
てんかんに対しては、通常の抗痙攣剤、ACTH、hydrocortisone、 γ-aminobutyric acid(GABA)amino transferaseの抑制物質であるビガバトリン(Sabril)が使用され、難治性の結節性硬化症のてんかん、に有効な場合があることが報告されています。ただ、ビガバトリンは使用に伴う検査が非常に厳しく、限られた施設でしか使用できないのが現状です。SEGAなどの脳の腫瘍による水頭症に対してはシャント術やSEGAに対する外科的切除を施行します。脳の中の結節が痙攣発作の原因と確認された場合には、この部分を脳神経外科で切除することもあります。最近はSEGAやてんかんに対してもmTORC1阻害薬のエベロリムス(商品名アフィニトール)の使用が可能になりました。自閉症などの発達障害に対しては有効な薬がありません。エベロリムスが有効な症例も報告されていますが、効果に対するコンセンサスは得られておりません。注意欠陥多動性障害(ADHD)に対しては、メチルフェニデート(商品名コンサータ)、アトモキセチン(商品名ストラテラ)、グアンファシン(商品名インチュニブ)が健康保険の適用になっています。
腎臓の血管筋脂肪腫は出血の危険性がたかいときには、腫瘍を養っている血管を詰めて腫瘍に栄養がいかないようにして、腫瘍を縮める経カテーテル動脈塞栓術(TAE)が行われることがあります。あるいはTAEが困難な場合はエベロリムスの内服が行われることもあります。エベロリムスは腫瘍を縮小させますが、消失させることは困難で、通常投与中止によって腫瘍が再燃します。多発性嚢胞腎に対してはトルバプタン(サムスカ)が使用されます。
肺のLAMに対しては、ホルモン療法や、卵巣摘出あるいは、mTORC1阻害薬のシロリムス(商品名ラパリムス)やエベロリムスの内服薬が使用されますが、ひどくなれば、肺移植の適応になります。
顔の赤いボツボツ(血管線維腫)や爪の周りの腫瘍は、日常生活でじゃまになったり、美容的に気になる場合は、皮膚科で治療を受けることができます。外科的なメスによる切除以外に、凍結凝固療法、レーザーアブレージョンなどが有効な治療として知られています。最近は日本ではシロリムスの塗り薬(ラパリムスゲル)が承認され、安全で簡便な血管線維腫の有効な治療薬として使用されています。
最近結節性硬化症の新しい治療法として、mTORC1阻害薬シロリムス(ラパマイシン)やシロリムスと同じような作用を持ったお薬エベロリムスが使用されています。シロリムスやエベロリムスは異常をおこしたチュベリンとハマルチンの複合体のかわりに働いてmTORC1を抑制し、腫瘍の増殖を押さえる作用があります。同時にmTORC1の活性化で生じている、血管線維腫や白斑などの皮膚病変やてんかん、発達障害に対しても有効性が報告されています。実際に結節性硬化症の患者さんのSEGAや腎血管筋脂肪腫あるいは肺のLAMに対して投与されて、良好な結果が得られています。最近、エベロリムスは結節性硬化症の治療薬として承認されましたが、SEGAや腎血管筋脂肪腫のようにきっちりとしたデータはてんかん以外はありません。皮膚の腫瘍もエベロリムスやシロリムスの内服によってきれいになりますが、時間がかかり、いずれの場合も内服を中止すると腫瘍が再び大きくなってきます。そのために、長期間の服用が必要となり、副作用が問題になります。そこで内服薬よりも早く効果が出て、副作用の少ない安全な治療薬として、患者さんの皮膚病変に対して、シロリムスの塗り薬が使えるようになりました。シロリムスの塗り薬は結節性硬化症の皮膚病変全てに対して使用可能ですがシャグリンパッチや爪線維腫に関しては治験のデータはありません。塗り薬を外用している多くの患者さんを見ていると、シャグリンパッチや爪線維腫は顔面の血管線維腫より軽快消退に時間がかかっています。長期試験の結果からは、シロリムスの塗り薬は特に最初の12週で腫瘍の縮小が著明でその後は軽快速度がゆっくりになります。これは特に小児で顕著に認められます。ただし1年以上の長期間塗り続けると相当大きな腫瘍も綺麗になってきます。また副作用は、塗布部の乾燥感、刺激間およびニキビ様皮疹/ニキビで、全身の副作用は認められませんでした。乾燥感、刺激感は使用後6ヶ月以内に出現することが多く、ニキビ様皮疹/ニキビは使用期間が長くなるに連れて増えてくる傾向がありました。乾燥感、刺激感に対してはワセリンやヘパリン類似物質外用剤(ヒルドイド)の外用併用が有効でした。また本罪外用時には遮光が必要ですので、日焼け止めを使用していただく必要があります。