Q19肺線維症にはどのような治療をするのですか?
肺線維症は全身性強皮症の最も重大な合併症です。肺線維症は肺が硬くなるため、人間が生きていく上で必要な酸素を空気中から血液の中に取り込めなくなって、息が苦しくなったり、咳が続いたり、さらに心臓にも負担がかかったりするもので、全身性強皮症で亡くなられる方の原因として最も多く約70%以上を占めます。ですから、この肺線維症を良くすることが全身性強皮症患者さんにとって、とても大切なことなのです。
肺線維症の治療としては、シクロホスファミドという免疫抑制薬が有効であることが明らかにされています。ただし、その改善効果は高くなく肺活量がせいぜい数パーセント改善する程度です。またシクロホスファミドは皮膚硬化にも効果があることも示されています。このお薬を投与する方法は、内服と点滴(パルス療法といいます)がありますが、どちらとも肺線維症に有効です。点滴の方が副作用(血液中の白血球が減ったり、血尿が出たり、女性の場合、生理がなくなってしまったりといった副作用があります)が少ないため、一般的には点滴が使われます。
ただし、シクロホスファミドはある一定量以上を投与すると癌を引き起こしてしまう危険性があり、長期間投与を続けることができないことが欠点です。例えば、パルス療法では月1回の投与を通常は6回程度までしか続けることができません。その結果投与を中止すると症状が再燃する場合も多いのが現状です。ですので、パルス療法後に別の免疫抑制療法の追加が必要となります。
最近、ニンテダニブと呼ばれる薬剤が肺線維症に有効であることが明らかにされました。この薬剤はある種の抗がん剤と同様に、チロシンキナーゼと呼ばれる細胞の増殖などに重要な分子の機能を抑制するものですが、全身性強皮症の肺線維症の悪化のスピードを遅くすることが分かりました。ただ、この薬剤を内服していても肺線維症の悪化を完全に食い止めることができず、この薬剤だけで肺線維症を治療できるわけではありません。また副作用として下痢がしばしば起こるため、内服する量を調節することや場合によっては中止することが必要となります。
皮膚硬化の治療のところで記しました、免疫担当細胞であるB細胞を除去するリツキシマブは、皮膚硬化だけでなく、肺線維症にも効果が高いことが特徴です。これは全身性強皮症に対するリツキシマブの臨床試験でも明らかにされていて、プラセボ(一見するとリツキシマブと区別がつかない、偽のお薬)を投与された患者さんでは6ヶ月後に肺活量は低下したのに対して、リツキシマブを投与された患者さんでは6ヶ月後、肺活量は低下せず、リツキシマブが肺線維症の悪化を食い止める効果が確認されました。さらに、他の臨床試験ではリツキシマブの投与によって、肺活量が10%以上大幅に改善した患者さんもいて、リツキシマブは肺線維症の悪化を食い止めるだけではなく、肺の機能を改善する効果も患者さんによっては期待できます。このような効果はこれまで他の治療法では達成できないもので、リツキシマブの大きな特徴といえます。ただ、リツキシマブは細菌に対する抗体を産生するB細胞を体から除去してしまいますので、副作用として感染症の発症には十分な注意が必要です。特に重症な肺線維症の患者さんでは感染症の危険性が高く、この薬剤が使えない場合もあります。現在全身性強皮症患者さんに使えるように申請中で、来年(2021年)の後半は保険収載される見込みです。